21世紀をたのしむ「昴」俳句会
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主幹句集  昴 8号 平成20年春号(通巻27号)
2008-06-29-Sun  CATEGORY: 昴 8号
水 温 む  早瀬 秋彦

病み抜けて生くべし蜆呟けり

予後の歩に力込めゆく木の芽晴れ

身を責むる悔いの歳月鳥雲に

裏返る記憶の闇に亀鳴けり

剪定や忽と欠けゆく知己はらから

春泥にまみれし予後の歩みかな

駄菓子屋の玻璃窓明り水温む

鶯や杣の朝餉の汁熱し

陽炎や明神下に江戸の影

風鳴りの祈願の絵馬や梅香る


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諸家近詠  道官佳郎 抄出  昴 8号
2008-06-29-Sun  CATEGORY: 昴 8号
諸家近詠  (順不同)  道官佳郎 抄出

木枯しが知る南溟の一つ星  小澤 克己(遠  嶺)
竹の春くちびる赤し寝釈迦かな  高岡すみ子(さいかち)
地上絵を統べる位置までいかのぼり  能村 研三(沖)
初声は天より水はかなたより  落合 水尾(浮  野)
もののふの汝もひとりや寒椿  角川 春樹(河)
流れゆく水の如くに年暮るる  大井戸 辿(欅)
初霞見えざるものは見ずにおく  大串  章(百  鳥)
去年今年無言のままにすれちがふ  鷹羽 狩行(狩)
もう春よ春よと花束の届き  木内 怜子(海  原)
これ以上枯れきれず立つ破芭蕉  舘岡 沙緻(花  暦)
業今も炎尽きざる除夜の鐘  石井  保(保)
冬の灯へ一書遥かな夢誘ふ  仁科 文男(白  炎)
みづからの目覚め促す初御空  雨宮 抱星(草  林)
来し方の火種の揺れてどんどの火  久保 保徳(草  炎)
明暗を分けて冬木の夜明かな  青柳志解樹(山  暦)
住みづらき浮世に生きて野菊の美  保坂加津夫(いろり)
石庭の石大寒に入りにけり  倉田 紘文(蕗)
そのままに冬のどんぐり地へ還す  星野麥丘人(鶴)
島よりの郵袋ひとつ松過ぎぬ  原田 青児(みちのく)
御由緒を余さず読めり初詣  仁尾 正文(白魚火)
主の前へ真直ぐに伸び霜の道  今瀬 剛一(対  岸)
寒菊を切り海光を引きにけり  中村 石秋(其  桃)
南畦の枯れ字深めし園の枯れ  河野  薫(あざみ)
早梅や音して風は家めぐり  村田  脩(萩)
老いぬれど枯れ急ぐもの無き暮し  小川 恭生(鵙)
萍を離るる水輪見張鴨  斎藤 夏風(屋  根)
賓頭盧のおん目失せたる寒さかな  鈴木 貞雄(若  葉)
父母亡くて天心に置く後の月  藤木 倶子(たかんな)
風花や蹌踉の歩の追ひ越され  澤田 緑生(鯱)
雪掻の挿し立てしより時間見ゆ  中戸川朝人(方  円)
混沌の世へと逃げ来て松の蝿  井上 論夫(加里場)
数珠玉を干して上総は水の国  鈴木 太郎(雲  取)
湯豆腐の中の青菜や嵯峨泊り  鈴木 鷹夫(門)
縄文の遺跡に犬と初走り  柴崎左田男(紫陽花)
わがための厨に生きて寒蜆  志摩 知子(和賀江)
春めくと忘れられない山ありぬ  松澤  昭(四  季)
貘枕雨の匂ひのしてならぬ  松澤 雅世(四  季)
江戸つ子のざつくばらんや雁帰る  鈴木 勘之(南  天)
翅はしろがね脚はくろがね冬の蝿  高野ムツオ(小熊座)
冬座敷一休の輿でんと据ゑ  山口超心鬼(鉾)
愚直もて守る一誌や冬紅葉  松本津木雄(阿  吽)
冬ざれや無縁仏に石積まれ  永方 裕子(梛)
石像の怒髪に止まる月しづく  小泉八重子(季  流)
春蘭の踏まれてありぬけもの径  野崎ゆり香(堅香子)
平らかな世過ぎもまれに雪中花  三田きえ子(萌)
春を待つ水輪の芯に番鳥  加藤 耕子(耕)
澄む水を澄むまま落す水車かな  松尾 隆信(松の花)
いま山を出でし日を浴ぶ鷹一羽  増成 栗人(鴻)
亡き父は大福が好き冬ぬくし  稲田 眸子(少  年)
枯野来て枯野に同化してゐたり  塩川 雄三(築  港)
福耳を褒められてゐるマスクかな  山崎ひさを(青  山)
初波に巌頭マリア鳥翔たす  波戸岡 旭(天  項)
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昴題詠  陽炎、 菫   昴 8号
2008-06-29-Sun  CATEGORY: 昴 8号
昴題詠  陽炎、 菫    早瀬 秋彦 選

森田 幸子
老いてゆく余白も罪か濃かげろふ
すみれ草作務衣の藍の匂ひけり
かげろふやたましひ揺れてしまひたり

篠田 重好
日の差して元気にひらく冬菫
うづくまる山羊の鼻面菫咲く
かげろひの笑ひて母の顔となる

小林 量子
こゑ上げて泣きし遠き日陽炎へる
すみれ草大きな玻璃戸開け放ち
花すみれ金の紐とく誕生日

伊藤美沙子
陽炎や見えゐて遠き子の新居
すみれ咲く樹間にあをむ越の海
冬すみれ柱状節理の際に咲く

西村 友男
漱石の墓に一輪花すみれ
陽炎を曳き来る嬰の初歩き
身を修む訓あまたや陽炎へり

道官 佳郎
陽炎や醤ひしほ香もるる佐渡の蔵
隠れ耶蘇継ぎきし島のかげろへり
弥撒にゆく少女のヴェール菫草

長沼ひろ志
かげろふや婚の荷に足す手紙束
陽炎を突つ切つて来る託言かな
札所への径に憩ふやすみれ草

岡田 律夫
バイロンの影ひく城やかげろへる
陽炎や宇治橋わたる修行僧
花菫のこし父祖の地去りにけり

仁木 孝子
すみれ咲く児童五人の分教場
黒塚や鬼の岩屋の濃陽炎
かげろへる間あひ狂言の太郎冠者

岸本 正子
白菫の光りや従軍看護婦碑
陽炎や曖昧と言ふ世の逃げ処
菫濃し胸内に湧ける校歌かな

神戸 和子
野生馬の草食む丘やかげろひぬ
押し花のすみれの色や友の文
空襲に怯えし壕のすみれ草

吉田美智子
陽炎や夭折の友野に踊る
押し花のパンジーこぼる母の文
遠く病む友の声音や花すみれ

谷口 秀子
陽炎や一輪電車ゆれて来る
陽炎や噂さらりと聞き流す
若くして逝きし父の忌菫咲く

福冨 清子
兄たどる黄泉路に菫草もがな
男の子らの征きし鉄路やかげろへる
わが目路に鬼呵わらひをりかげろへり

森 万由子
陽炎や芥漂ふ船溜り
メルヘンの乏しき浮世かげろへり
すみれ野に響く鐘の音トラピスト

齊藤 良子
陽炎の彼方父母顕たつ十日かな
花菫風に舞ひ居り地獄谷

梨 豊子
すみれ草旧知の如し触れてみる
陽炎にかどはかされし身の不覚

久 篤子
かぎろへる天国の道思ふかな
苦しみの数だけ優しすみれ花

小林貴美子
参道につづく学舎陽炎へり
林檎の花に触れゐる父の肩車

松 守信
すみれ草馬の嘶く草千里
昇天のうからはらから陽炎へる
相澤 秀司
かげろいて静止画となるハイウェイ
千年の椨の木の蔭すみれ咲く

土田 京子
陽炎やちちはは無くて家残る
勝公妻子の墓や冬すみれ

齊藤眞理子
俯けど強さ秘めをりすみれ草
秩父なる巡礼古道かげろへる

渡邊 二郎
陽炎や我が身一片箍ゆるむ
俺の匂ひ待つ家ありて菫咲く

鈴木八重子
花菫童女のやうな友の笑み
陽炎や心の歪ひづみ見せまじく

藤原 香人
バス二台かげろいてをり石舞台
取り去りしふらここの跡赤くさび

久保田シズヲ
陽炎を震はせて鳴る警報器
現世の余白に生きて陽炎へり

佐々木久子
訪めゆかんブッセの空やかげろへる
甦る越路吹雪や菫咲く

星  道夫
花菫まじなひかけて水を遣やる
抱いてゐる猫逃げたがる菫の野

會澤 榮子
幾山河母と越え来しすみれ草
年金や昭和のどこか陽炎へり

今井千穂子
母に読みし 「スヌー物語」 かぎろひぬ
濃紫の菫の一輪黒薩摩

木島 幸子
すみれ咲く真澄の空や都井岬
賊軍となりし墓群かげろへる

橋 みえ
山道のひと息入れし菫かな
陽炎の遠き野に来て怯えゐる

伊沢トミ子
陽炎の中に消えゆくギター引き
菫咲く鳳莱山寺の羅漢たち

堀越 寿穂
美辞麗句並べ立てをり花菫
陽炎や母子の影の消えゆけり

篠崎 啓子
婚五十年事の数多や陽炎へる
菫苗店に溢れて頬緩む

石井 深也
老いてなほ夢を追ひをり野のすみれ
陽炎におのれの老いを見てゐたり

平野 欣治
陽炎へる子の六十年や夢の夢
菫咲く眞白き冨士を天上に

國分 利江
エンゼルの息のかヽりし冬すみれ
みちのくの泣虫こけし冬すみれ

西田 綾子
信濃路の山ふところや白すみれ
陽炎や馬頭観音辻にあり

本田ハズエ
長コースただ陽炎を突走る
花菫たつた一輪墓地に咲く

原  繁子
病みぬけし黄泉路の兄や菫草
陽炎や甲斐駒ヶ岳へ向け柩発つ

鈴木 昌子
虚子一族の墓域一輪野路すみれ
陽炎や子は機と共に飛び去りぬ

大竹  仁
試歩の道妻陽炎の中に佇つ
花菫縄文後期は海の底

藤沢 正幸
陽炎をくぐる隅田の十二橋
橋一つ渡りし畦の菫かな

内藤 宗之
追憶の中に咲きたる菫かな
かげろふや観音裏の万太郎碑

小山けさ子
丸髷の母の写真よすみれ草
逆境の我にかげろふまとひつく

山口 梅子
一点の染みなきままに白菫
卵つつむ母の姿のかぎろへる

井上  元
すみれ草共に摘みたる妹は亡し
地震ありし海の原発陽炎ひぬ

田中 洋子
香菫  にほひすみれ束ねて母の枕辺に
沼津市になりし戸田 へ だ 村陽炎へる

木島サイ子
かの径に会ひたき人や陽炎へる
花菫高畑颪に吹かれをり

又木 順子
軋み来る一両電車かげろひぬ
岩を裂くいのちひそめて菫咲く

小能見敦子
村宮に父祖の名のあり菫咲く
陽炎の川土手巡る一と日かな

山地 定子
煙草吸ふ卆寿の夫の陽炎へり
走り根に身をひそめをり花すみれ

北島美年子
ひとり身を通せし女や冬すみれ
かげろふやパンダのバスがゆつくりと

中島 勝郎
生き様をすみれの如くおくりたし
かげろふの中に溶けゆく轍かな
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新句集紹介  昴 8号
2008-06-29-Sun  CATEGORY: 昴 8号
新句集紹介  小林 量子


  句集「山暮し」 諸田宏陽子

 大正十五年静岡県生まれ。昭和二十一年より俳句を始め、現在「山暦」同人。「山暮し」は「山村水郭」に続く第二句集である。大井川上流の四季折々の風情と暮らしを詠んだ句が多いことから句集名を「山暮し」と名付けたとあとがきにある。土の香と季節の味わいのあふれた句集は、農村風景や茶摘みの情景、地方の風習の名残も楽しめる心豊かな句集である。
  禁酒して花見の衆の端に居り
  手掴みて捕りし鰍に睨まるる
  売りに出す山に囀り始まれり
  当分は電話で済ます暑さかな
  茶摘女へSL汽笛鳴らしけり
 静岡は気候温暖な、前に海後ろに富士の勇姿という羨ましい風光の地である。この地で生まれ育った作者の土着の句には、人を惹き付ける力がある。
  猫の目が屋根に光りて星月夜
  劣等感などは無いぞと羽抜鶏
  相続を拒否されし山笑ひけり
 一句目は印象鮮明で透明感にも魅力がある。二句目三句目の俳諧味にも惹かれた。自然の中での素朴な生活の結晶であり、作者の揺るぎない魂から生まれた珠玉の句集である。
  静岡県在住。俳人協会会員。  〈北溟社刊〉

  句集「土笛」 島 雅子

 一九四〇年神戸市生まれ。一九九三年「みちのく」入会を経て「門」入会。現在「門」同人。「土笛」は第一句集である。句集名は「雪の日のこの土笛のぬくきかな」より。頁を繰り進む程に、つぎつぎと面白い句に出会う。
  今がいま過去となりたりかなかなかな
  個性派と頑固のあひだ榠櫨の実
  水飲んでかたちになってゆく寒さ
  多数派にはならぬ美学や囀れり
  吾のなかのもひとりの奴狸汁
 少し違った視点から醸し出す個性的な句が読者の胸をワクワクさせる。選ばれた言葉一つ一つに作者の並々ならぬ感性がかいま見える。また次の心の内面を抉った数々の句にも惹かれた。
  うすらひと水との間こころ置く
  だしぬけの涙や水母裏かへり
  無名なるしあはせもあり梅真白
 最後に、主宰の鈴木鷹夫氏の序文の最初に取り上げられた、妖しさと魅惑を秘めた句をあげる。
  薔薇の湯に身をまかせをり遺体めき
  相模原市在住。俳人協会会員。音楽教室主宰。
〈角川書店刊〉

  句集「初冬」 鹿野佳子

 昭和九年生まれ。昭和五五年「朝」入会。平成一八年「琉」入会。現在「朝」同人。「初冬」は「花束」に続く第二句集である。柔らかな言葉が醸し出す句には、読む者の心を優しく包む。
  葭切やはなれ住むとは想ふこと
  ゆっくりともの言ふ人と秋惜しむ
  塗椀の照りほのかなる時雨かな
  柿の花ほたりと山気ゆるみけり
  鈴虫の鈴ひと振りを待つ夜かな
 作者の詩心に柔らかに包まれ心地よい。作品の一つ一つの詩情は、作者の生きてきた日々の耀きとして投影されている。心の内面を詠った句にも、しなやかな心情が表出されている。
  見つめゐるこころの波紋水すまし
  咳の子を咳ごとあつく抱きけり
  好き嫌い激しく生きて水仙花
 あとがきに「小春日和」には「晩年」の意味もあり、静かな晩年を望む気持ちで句集名を選んだ、と記されている。読み終えて、すぐ第三句集を待つ気持ちになった。
  横浜市在住。俳人協会会員。 〈角川書店刊〉

  句集「有頂天」 多々良敬子

 昭和十三年東京都生まれ。昭和五十七年より俳句を始め、昭和五十八年「さいかち俳句会」入会。現在「さいかち」同人。平成十五年さいかち賞受賞。「有頂天」は第一句集である。有頂天は仏教用語だが、舞い上がって自分を見失わないように、地に足を着けて人生を送る、という趣意だと、あとがきにある。
  少しづつ緩む身の内薄氷
  有頂天より垂直に声冷まじや
  この枯木千手観音かもしれず
  ほうたるや眼凝らせば火の記憶
  落日や火の粉のやうに小鳥くる
  噴水の噴かねば景の定まらず
 単なる写生に終わらない句の数々。作者の広い教養と人生経験が滲み出る。事柄と季語の配合の巧みさ、その底に流れる人となり、それらが結晶した句が心に響く。文学や歴史への造詣も句の端々に読み取ることが出来る。最後に、明日香を詠まれたと思われる句を抜き、終わりとする。
  みささぎへ帰化す背高泡立草
  石棺の中は緋の色小鳥来る
  東京都在住。俳人協会会員。 〈梅里書房刊〉

  句集「梅日和」 春川園子

 昭和十三年東京生まれ。平成六年「海嶺」入会。「海嶺」終刊後、平成十二年「花暦」入会。現在「花暦」同人。「梅日和」は〈末の娘の婚の黒髪梅日和〉より。第一句集である。身辺を詠んだ句には、女性特有の柔らかな情愛が溢れていて共感を呼ぶ。
  嬰の手の届かぬやうに初雛
  娘は今も母に厳しき夏大根
  病みて知る夫の情けや草の花
  病名を知らされ寒を耐へゐたり
  さくらんぼ含み卒寿の母とをり
 特に、句集名となった梅日和の句は、清々しく明るい光と初々しさに溢れている。また、大景を詠み込んだ句の伸びやかさにも惹かれた。
  帆船の動くともなく冬はじめ
  鉄塔に人働けり山の秋
  山畑に農夫ひとりや大根引く
  川崎市在住。俳人協会会員。〈ふらんす堂刊〉

  句集「白玉椿」 熊倉愛子

 大正九年東京生まれ。昭和五十五年「春嶺」入会。平成五年「海嶺」創刊入会。平成十年「花暦」創刊同人。現在「花暦」同人会長。「白玉椿」は第一句集である。
 視野が狭まり、視力が衰えてからの選句作業は、如何に大変であったか想像するだけで畏敬の念で一杯になる。
  編み返す夫のセーター身幅つめ
  癒ゆるあてなきを看護りて暮の秋
  朱を入れし己が戒名うそ寒し
  大榾の形くづれず燠となる
  真二つは倅まかせの大西瓜
 初期の句を思いきって削られたという珠玉の句集は、取り上げなかった句に心が残る。ご主人が亡くなられてから、堰を切ったように旅をされたという旅の佳品を取り上げたい。
  緑蔭に媼綿打つ西安路
  出羽訛厳かにして薪能
  立冬を冬なき国の旅にあり
 最後に、一番心を惹かれた句
  家も吾も白玉椿と共に老ゆ
  群馬県在住。俳人協会会員。 〈角川書店刊〉

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リレー俳談  昴 8号
2008-06-29-Sun  CATEGORY: 昴 8号
リレー俳談

イチローの至言  渡辺 二郎

 本年一月二日夜九時NHK制作の「プロフェッショナル仕事の流儀「イチロースペシャル」が放映され、イチローの名で親しまれている鈴木一朗さんのメジャー入りから七年の生態が画面一杯に映し出された。
 イチロー、奥さん、愛犬一匹、特に際立った生活様式でもなく一般の人と何等変るところは見られなかった。ところがである。キッチンの一台の冷蔵庫をあけて見せた時その内容に驚いた。深底の鍋が何段にも入っているだけで他には何もないのである。そしてその中味は奥さん手造りのカレーであった。
 イチローはそのカレーを毎日決まった時間に規則正しく朝昼兼用の食事として食べ続けているのである。この生活のリズムが今迄の成績につながっているというのである。そしてそのカレーの絶対性と言える不変的な味を維持する奥さんの心遣いと努力に感服させられた。イチローは「私の仕事より家内のこのカレーを作ることの方が大変だと思います」と言っていたことが妻に対する大きな愛情をうかがわせていた。イチローはこんなことも話していた。「重圧が来たら俺は逃げない、もがいて苦しんでいると光が見えてくる。何時か見えると思って何もしなければ一生光は見えない」「同じ処でずっと見ているよりも一寸離れてみたら景色は変るんじゃないか」
 一流中の一流になっても常に抱いている努力と向上心のあり方に教えられるものを感じた。私は日頃から壁に突き当って試行錯誤の繰返しをしているが、イチローの言葉は全く作句に当っても同じことと言えるのではないだろうか。どんな変化球でも片端しから打ちこんでゆくプロフェッショナルな度胸と卓越した技量は、七年間も同じカレーをたべ規則正しい生活をおくり、そして球場へ足を運んでくるファンを喜ばせることに懸命な姿は、やろうと思っても一朝一夕に出来ることではないことを充分納得させられた。ということは更めてイチローの言葉は作句する上において我々に通用するし忘れてはいけないことだと思うのである。
 結びとしてイチローは、今年は八年目、連続二〇〇本安打が目標と報じていた。



江戸の町  小林 貴美子

  陽炎や明神下に江戸の影

 三月の句会で頂いた、老川先生のお句です。陽炎の向うに江戸の町が見えてくる思いに暫しひたりました。私が国民学校二年生の頃に味わった、別世界の感覚を思い出したのです。明神下と言えば、神田明神の後の町。私は神田小川町の近所の友達数名と遊びに出かけ、明神様へ参拝し境内を巡り本殿の後方へまわりました。するとそこには思いがけない青空が広がり、目の前に何もなかったのです。そこの際まで行き、下を見下すと、瓦屋根が黒々と静まる町並がありました。左の方に下へ向う細い石段があり、私たちは誘われるように下りて行きました。長い石段を降り立った所は、神田には珍しく静かな町が軒を列ね、閉った格子戸の前を歩いて行くほどに、神隠しに会うような不安な気持にかられ、今来た道を一目散に走り、石段を見つけて登りました。息がきれそうだったのを覚えています。その町が、野村胡堂が「銭形平次捕物控」に書いている江戸の町だったのか。神田台所町。「親分、大変ッ」日本一の浅黄空、江戸の町々はようやく活気づいて、晴れがましい初日の光の中に動きだしたとき、八五郎はあわてふためいて、明神下の平次の家へ飛び込んできたのです。―銭形平次のプロローグ―
 神田明神の銭形平次の碑の隣りに、「国学発祥之地」今東光撰文と記された碑があります。江戸中期に、東光と芝崎神主による国学の教堂がこの地にあり、賀茂真淵、本居宣長等国学者を輩出し、今日の国学の基をなしたとか。明神様から天神様へ、この辺りは俳句にもよく詠まれますが、神田明神の横の道を辿って行くと湯島の天神様。その途すがら湯島三丁目を訪ねれば、私たちの俳誌「昴」の発行所があるのだと思います。「昴」は私たちの教室。老川主宰のお書きになられた「人生派としての自覚」を改めて読みました。先生の主意を理解し、精進をつづけて行きたいと思います。
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