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21世紀をたのしむ「昴」俳句会
星雲集 昴8号
2008-06-29-Sun  CATEGORY: 昴 8号
星雲集  早瀬秋彦 選

輪廻流転  岡田 律夫
豆打つや輪廻流転のはじまれり
胸中の破邪顕正や豆を撒く
亡き人を追ひ行くごとく枯野ゆく
仮臥しの仮死の白鳥よみがへれ
渡良瀬に溢るるひかり蕗の薹
師を恋ふや鷺坂翳る春時雨
奥津城の初音にしのぶ桂昌院

外郎売りの科白  木内 宗雄
綿虫や馬庭念流荒仕込み
枇杷咲くや上がり框に女下駄
使ひ場の水のきらめく冬霞
つぶやくも応ふもひとり息白し
餌に馴れし白鳥の胸汚れをり
読初に外郎売りの科白かな
初刷に染太郎をり大神楽

春   隣  米山 光郎
畦を焼く百姓ことば使ひ慣れ
涸れ川をひからすだけの鎌を研ぐ
つまづいてゐる鳥もゐて川涸るる
ひらがなで語るはなしや春隣
野を焼いて貧乏性の背を伸ばす
薄氷を割つて朝刊届きたる
白壁に鳶の影濃き龍太の忌

霧 氷 林  伊藤 美沙子
瑠璃懸巣翔つ翳あをき霧氷林
浚渫船花のあはひを動かざる
後智恵のほぞ噛みてをり蚯蚓鳴く
河豚ちりや引込思案のそら笑ひ
雁渡し仁右衛門島の手漕船
追ひつめし綿虫は手に毀れをり
火のごとき絵師の瞳のいろ寒牡丹

余   生  仁木 孝子
鶺鴒に急かされてゐる余生とも
烏瓜ひとつ灯りぬ阿弥陀坂
彼岸花ほつほつ馬琴の墓古りぬ
草紅葉湖は太古の色を秘め
懐手して行く末は案じざる
越中八尾の恋は託言や酔芙蓉
美作やとろとろ母のとろろ汁

柵  堀越 寿穂
気が付けば足掬はれしすき間風
柵しがらみを解いて孤独や水澄まし
しがらみに耐へて孤独や春霞
向き合ひしいのちの鼓動初明り
善と悪人間模様年暮るる
鯛焼や肚さぐり合ふ人ばかり
剪定や切れぬ柵ありにけり

天   狼  小林 量子
天狼や渭水を詠ふ遣使の碑
霜柱前後左右に八束の目
唐三彩馬一対の淑気かな
燃えつきしあとの夕雲いかのぼり
砂浴びの鶏の日だまり小正月
天狼や隠岐に祷りの御火葬塚
百物語の九十九番隙間風

冬   苺  小川 時子
稲束に日の当たりをり陰り畑
友逝くや十一月の小石川
元禄の小袖模様や冬椿
プーさんのリボンは赤しクリスマス
巻き紙の母よりの文ふみ一葉忌
激痛の夫を看取りし大旦
子に知恵の着きくる日々や冬苺

薄   氷  齊藤 良子
ぬけられますてふ玉の井の路地寒燈
初旅や俳聖の名の船に乗る
綿の木の綿八方に飛ぶ恵方
薄氷や形身の赤きトウシューズ
薄氷や又も二の足踏んで居り
椅子一つ空く面影や初句会
耳遠く浮世を遠く春の雪

亀 鳴 く  山田 恭子
おがみやの昭和一桁春談義
変る世の障子張ること知らぬなり
わだかまり解けず仕舞ひや亀鳴けり
繰り言を頷いてをり雛かざる
幾つかの恋のカップル新芽吹く
無防備に日々過し来し日傘かな
総持寺の芽吹に翳る墓どころ

ごつた汁  岸本 正子
指物師の木槌のひびく夜長かな
狐火や上目づかひの女達
時雨るるや母の手になるごつた汁
山眠るペン馳す音の響きゐて
風花や認知症棟産科棟
名残り雪真砂女の酒舗の閉ざさるる
初明り新シナリオを開きける

一   月  相澤 秀司
初刷の一面子規と一茶の句
正月の凧避け合ひて絡み合ふ
若布干す陽射し懐し八束句碑
外房や群咲くアロエ風に搖れ
わだつみの風味鯨のたれを噛む
空つ風指輪の光る喫茶店
血圧の上がり下がりや冬日暮る

信   州  久 篤子
信濃路の石仏のもと白菫摘む
下伊那は柚べしアルプス兵の墓
高遠は遠し木の葉のしぐれ道
浅間雪おばすて山はどのあたり
篠ノ井の南姨捨山眠る
姨捨は冠かむり着き山やまよ冬の月
お土産は上田の新酒福無量

蕗 の 薹  森田 幸子
山眠る素焼きの陶の罅深く
冬帽や鬼心野心の目をみはり
暇いとませぬ身ぬちの鬼ぞ寒明くる
大寺の僧の泪目蕗の薹
肩書の要らぬ人生蕗の薹
鶯や一語に癒ゆる思ひあり
絵硝子のイエス・キリスト春日影

蕗 の 薹  梨 豊子
喪帰りの塩撒かれゐて冴え返る
蕗の薹故郷の風の声すなり
クラス会みな老いぼれて山笑ふ
風光る原つぱに子らちりばめて
駱駝のシャツ好む夫と居日脚伸ぶ
蜷の道蜷ふり返ることありや
男の子らのはにかみ顔や雛祭る

冬 銀 河  定松 静子
それぞれの音色のちがふ除夜の鐘
書初の紙にあふるる夢の文字
桃青も蕪村もはるか冬銀河
哀しみは枯葉踏む音に消えゆけり
お手玉は母のぬくもり冬うらら
冬さびし去りゆく人の夢を見し
冬日和子猫のせなに遊ぶ風

水屋書店  土田 京子
村中が鈍色燦と霜柱
水屋書店消ゆ仲見世に冬の月
大寒の背ナで物言ふ夫であり
はだれ雪の瀬戸にて曲り使ひ川
杜氏発つ弥や彦ひ山こに翳る道を踏み
菜の花や老一徹の鍬おろす
逢魔が刻雛のかんばせ白し

冬 帽 子  長沼 ひろ志
職退きてよりの褪せ色冬帽子
冬帽を握りしめゐる訣れかな
息白く口裏しかと合はせをり
日もすがら鑿打つひびき寒椿
冬霞わが晩節にたどりつく
明日を恃むことなき齢寒椿
阿夫利嶺の雲のかがやく初音かな

菜つぱ飯  篠田 重好
強東風の川原に雉子たたら踏む
チューリップ一糸乱れず行進す
菜の花の香にむせびたる母郷かな
遺児五人育てし母の菜つぱ飯
蝶々とオランダ坂をのぼりけり
蝶来ては囃しゆくなり葱坊主
老人の迷子放送花曇

憂 き 世  西村 友男
卓袱台の足たたむ音一葉忌
いろり火の映えて聞きゐる父母の恋
連休を先づ調べをり初暦
水戸様の変らぬ園や初景色
諸行無常の声聞こえをり敗れ蓮
餅を焼く憂き世といへど捨てがたく
崑崙を越ゆるわが影初枕

天   狼  松 守信
天狼の吠ゆる幻妹逝きぬ
みちのくの社宅の暮し笹子鳴く
天焦がす野火渡良瀬の大原野
蒼天の寿福寺詣で実朝忌
刺す風に涙目となり麦を踏む
酒気帯びの二月礼者に居座らる
北国の棚田や畦に蕗の薹

煮   凝  道官 佳郎
甲冑の緒の藍ふかき淑気かな
初刷に万の活字の息吹かな
煮凝や加賀の馴染みの朱塗箸
夕かげの声なき獣舎寒に入る
極月の船笛消ゆる沖の闇
悴みし拳を固め拉致憂ふ
咳の背の波うつ夜の荒ぶ海

初   鏡  神戸 和子
いくばくの命を惜しみすがれ虫
インド舞踊の鈴の音響き秋深む
きつぱりと心明るき障子貼る
額づきしうなじの白さ七五三
湯豆腐や亡つ父まとの月日懐しむ
はらからと炉辺に競ひぬ父の膝
粧はず生きゆく余生初鏡

桜  火野 保子
青空に師の目師のこゑ冬桜
節分草岩間より水走り出す
日脚伸ぶこゑあげさうな沼ひとつ
いちまいの雪に野焼の火が走る
慰霊碑を囲みし木々の芽吹きそむ
冴返る極彩褪せぬ観音堂
ちちははの墓域の桜満開に

蕗 の 薹  森 万由子
若水や今こん日にち只今生きて候
ダム底にひそむ一村山眠る
連凧の昇りつめたる空の碧
ひそみゐる明日への期待蕗の薹
掬ひたる命の重さ白魚網
躾針少し軋みぬ雪催
鶯や追伸一行添へゐたる

イスタンブール  齊藤 眞理子
のうぜんやイスタンブールの裏通り
ボスフォラス海峡渡る爽やかに
いちじくの熟るる遥けきトロイの地
白南風にスパイス香るガラタ橋
定まりし自分の色や衣替へ
早逝の友の呼ぶ声夕河鹿
梅雨明けの浜揚げ真珠選びをり

冬 帽 子  小林 貴美子
人群は安堵の坩堝冬帽子
倭  や ま国となる初日そらみつ老いゆかむ
母偲ぶなぞへの藪の寒椿
悴みて恨みつらみの中にをり
朝粥となる小日向の蕗の薹
白魚の踊り食ひする泣き笑ひ
行燈を曵く宍道湖の白魚漁
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